AI_ML_DL’s diary

人工知能、機械学習、ディープラーニングの日記

NMRのお勉強(2021.12.23-26)(2022.4.29 - 5.8)

NMRが理解できないので、今日(2022年4月29日)からGW中に、理解に努めよう。

まずは、昨夜、NMRのテキストを2冊注文した。そのうちの1冊は日本分光学会から分光法シリーズとして出されている「NMR分光法」講談社である。

早速、いまだにぼんやりとしている縦緩和時間T1と横緩和時間T2の理解からはじめよう。まず、ムーアの本の約15行の説明を読み、次に、「NMR分光法」の2.4 核スピン緩和を読むことで、ようやく理解できた。(現象の物理的説明が詳しく書かれているので、じっくり読んでみる)

 

パルスNMRと高分解能NMRの計測データを解析できるようにしよう。

10月に勉強したのだが、やりなおし。

磁性とは何かをムーア先生に教えていただこう。

14章 分子構造と分子スペクトル

8. 磁気的性質

分子は永久磁気モーメントµと磁場によって誘起するモーメントαをもっている。

Bは磁気誘導、 H は磁場の強さ、  I は磁化の強さすなわち単位容積あたりの磁気モーメント

磁化率χは、I/Hで、負であれば反磁性、正であれば常磁性である。

9. 反磁性

磁場が加えられると、動いている電子の速度が変わり、Lentsの法則に従って、加えられた場と反対方向に働く磁場を生ずる。

原子中の電子の軌道が小さいため反磁性効果は小さいもので、グラム当たり、- 10^-6程度の大きさである。

10. 常磁性

常磁性を生ずる場合にはχは通常グラム当たり、10^-3 ~ 10^-4で、したがって小さな反磁性効果は問題にならない。

常磁性は軌道角運動量とスピンとに関連している。

軌道角運動量の磁気モーメント

磁気回転比g

量子化

スピン角運動量

11. 磁性の型

12. 核の性質と分子構造

 分子構造の実験的研究のまず目指すところは、分子内で原子核がどのような空間的配置をとるかということである。このような知見を得るには、構造内の結合間隔、結合角を知る必要がある。しかしこのような構造だけでは満足できるものではなく、電子が核の間でどのように分布するかを知る必要もある。電子の分布がわかると、結合の本性がはっきりし、最後には分子の化学反応性が説明できる。双極子モーメント、磁化率、スペクトル、X線ならびに電子線回折の測定をすれば電子構造についての知見が得られるが、これらの方法はすべて分子とある種の電磁場からなる外部検査器との相互作用に基づくものである。しかし大抵の場合、このような場は電子分布の微細な点まで明らかにするほど精密なものではない。

 近年この分野において重要な進歩があった。その考えは核自体を検査器として用い、核をかこむ電子の分布を明らかにしようとするのである。核は無情な点電荷ではなくて、それが置かれた電気的な環境に敏感に反応する特性をもっているのである。核とその周囲との相互作用によって起こる効果を研究すると、分子内の電荷の分布の詳細がはっきりしてくることが多い。

 核の重要な性質はその磁気モーメントと電気四重極モーメントである。核は固有の核スピンをもっており、したがって磁気モーメントµnをもつ小さな磁石として働く。核は固有の双極子モーメントはもたないが、四重極モーメントeQをもっている。核が四重極モーメントをもつとすれば、核の電荷分布は完全な球対称からずれていなくてはならない。このような核を普通回転楕円体で表すことができる。

 

13. 核の常磁性

陽子の磁気モーメント:2.79245核磁子

中性子の磁気モーメント:-1.9135核磁子:負に帯電した粒子のモーメントと同じような挙動をする。

 

14. 核磁気共鳴

 

 系が低い状態に戻るのは、スペクトルを放出することによるだけではなく、緩和過程とよばれるいろいろな無放射機構によっても起こる。このような緩和過程が存在しないと、下の状態にいる方が上の状態にいるより少ないような熱平衡を維持する方法がないから、核磁気共鳴は実際に不可能になるだろう。

 緩和機構には次の2種類のものがある。その1つは外部場の方向の核磁化がその平衡値に達しようとする緩和であって、縦の緩和(lomgitudinal relaxation)とよばれる。これは緩和速度が上の状態にある核の数の(平衡値からの)ずれの1乗に比例するから、1次反応式に従う。すなわち(8・11)式から次のようになる。

n - ne = (n - ne)0e-k1t = (n - ne)0e-t/T1

ここで速度定数k1の逆数は緩和時間T1、とよばれる。この過程はまたスピン-格子緩和ともよばれ、配向した核のまわりの物体中のいろいろな変動する局所場によるものである。多くの機構のうちの一例として、常磁性イオンが水に付着すると、イオンの不対電子の強い磁場のため陽子の緩和時間T1が非常に減少することが見出されている。図14・11には水中の三つのイオンについてこの効果が示されている。

 第2番目の緩和過程は横の緩和(transverse relaxation)(T2) とよばれる。場の方向のまわりを歳差運動をしている核が互いに同一位相にあると、磁場の軸 Z に垂直な XY 面に磁気モーメントの正味の成分が残ることになる。したがってこの位相を破壊するような何らかの場があると、磁気モーメントの XY 成分の緩和を起すことになろう。このような過程の一つはスピンースピン緩和であって、スピンの高い状態の核がスピンを交換して隣の原子核へエネルギーを移すのである。

 

15. 化学シフトとスピンスピン分裂

 核の周囲もまた核が感知できる程度の小さな場の効果をもつことができる。このことのために分子構造や化学結合の本性を研究する際 NMR が非常に有用になる。核のまわりの電子は外部場の作用をうけて誘起反磁性を生じ、部分的に核をしゃへいする。このしゃへい効果は外部場の約100万分の10にすぎないが、NMR 測定の精度は非常によくて、この効果は1%以内の精度で容易に測定される。この結果は化学シフト(chemical shift)とよばれる。図14・10では、CH3CH2OHの陽子共鳴がこの構造の三つの異なった種類のHでそれぞれいくらか違っている例を見た。化学シフトは外部場によって誘起される反磁性によるものであるから、その絶対値は外部場の強さによって決まる。

 図14・10(a)に示した NMR スペクトルをさらに分解能のよい装置で調べると、CH2のピークは四つの線に、CH3のピークは3つの線に分裂する。高分解能で得られたスペクトルを図14・10(b)に示す。CH2やCH3のピークを分裂した効果は、核のまわりの電子が核をしゃへいしたため生ずる化学シフトではない。その理由は、観測された分裂が加えた場の強さによらないからである。この効果は一組の陽子の核スピン(磁気モーメント)と他の組のものとの相互作用によって生ずるものである。したがってスピンースピン分裂(spin-spin splitting)とよばれる。

以下に簡潔な説明がなされているが、図示できないので省略する。

 

昨日購入した「NMR分光法」においては、スピンースピン結合として、12ページ以上にわたって詳細に説明されているが、難しく書かれていて、よく理解できなかった。

 

**********2022年4月29日再開

 

 

 

 

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今日からMacBook Pro/Anacondaを使おう(2021.12.11-12)

2021年12月11日

今日から、MacBook Pro「2020 Apple MacBook Pro Apple M1 Chip (13インチPro, 8GB RAM, 512GB SSD)」を使う。今(午前7時25分)は配送中で、午前中に届くことになっている。

MACは、20年以上前にディスプレイ一体型のデスクトップタイプを購入して使ったことがあるが、それっきりで、以後はWindowsマシンしか使っていない。

なぜ今Mac/Anacondaなのか。

それは、"DiffPy-CMI"というソフトを使いたいためである。

これは、X線を用いて計測したデータを解析するためのソフトで、version 3.0 DiffPy-CMIは、デフォルトでは、LinuxMacに対応しているだけである。

GitHubには、コロンビア大学の大学院生がWindows 10で動かすためのツールを公開している(st3107/diffpy_talk)ので、それを使う手もあるようだ。

もうMacを入手したので、Macで進めるが、Windows 10も、これを機会にリフレッシュしたいとも思っている。特に、Anaconda3は、TF2のインストールでトラブったのが尾を引いていて、TF2はまだ使えない状態が続いている。

 

DiffPy-CMIは、PDF(pair distribution function)スペクトルの解析、シミュレーション、フィッティング等を行うことができるものである。PDFguiを使えばPDFについては、同等のことはできて、PDFguiはWindows 10で問題なく使える。

DiffPy-CMIを使う目的は、"CMI(complex modeling infrastructure)"にあって、このCMIを用いると、TEM, EXAFS, Raman, NMRなどのデータとシンクロさせて解析することや、DFT計算結果を反映させることもできるらしい。それに加えて、ASE(Atomic Simulation Environment)を用いて作成した元素構造モデルも、シンクロさせて解析することができるようである。

 

今(午前10時45分)、MacBook Proが届いて梱包を解いた。

DiffPy-MSIとASEを、よく理解してからMacProを動かそう。

 

DiffPy-CMIを表す図

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夜になって、MacにAnacondaをダウンロードしはじめたのだが、読み込み中にエラーが出て、Webページの再読み込みの繰り返し。途中でいやになってMacを再起動して、Anacondaをダウンロードしようとしたら、登録済みメルアドが使われていると警告が出て、それ以上進まない。仕方なく履歴を見て、エラーしているところまで戻ったら、ダウンロードは再開されたが、症状は同じ。ダウンロード中に問題が起きたからWebページを再読み込みしろ、というのが繰り返されるだけ。困ったもんだ。
このおかしな現象は何時間続いたかわからない。さらに、なけなしのお金、約17万5千円が無駄になったと思った。

 

あきらめて、リセットしてMacを立ち上げてみると、なにかがダウンロードされていることがわかった。調べてみると、Anacondaが、ダウンロードされていた。何が起きたのかよくわからないのだが、Anacondaのダウンロード中に、Anaconda Nucleusというのが勝手に立ち上がってエラーを起していたのではなかろうか。要するに、ダウンロードは数秒くらいで終わっていて、Anaconda Nucleusというソフトが勝手に立ち上がって動き始め、それが、エラーを引き起こしていたようだ。

 

なにはともあれ、ダウンロードしたAnacondaのファイルは、ダブルクリックすることによってインストールできた。

 

以上で本日終了。

 

明日は、DiffPy-CMIを使えるところまでいきたいね。もう午前1時20分になった!

 

12月12日(日)

Anaconda3をインストールすることができたので、DiffPy-CMIをインストールすれば、使えるようになる。

 

ふつうは、Anacondaのサイトにアクセスすれば、パソコンのシステムを自動検出し、ダウンロードボタンを押せば、感知した環境に応じてWindows, Linux, Macのどれかに対応したAnacondaパッケージがダウンロードされ、ダウンロードしたファイルを探して、ダブルクリックすればインストールが始まるので、あとは、指示に従って作業すれば、Anaconda3をベースにしたPython環境が整う。

 

Anacondaのインストールは、これが2度目である。

最初は、2018年4月頃で、ディープラーニングの勉強を始めた頃である。Windows 10を使っていたのだが、Anaconda3をダウンロードし、インストールすると、Anaconda3のホルダー内に、コマンド入力用画面(ターミナル、コマンドプロンプト)やSpyderやjupyter notebookなどのアイコンが表示されていて、すぐに使い始めることができた。

2度目に相当するトライは何度かやってみた。Windowsでは使えないモジュール/パッケージを使うために、Linux(Ubuntu)の環境にして、Anacondaをダウンロードし、インストールしようとしたのだが、うまくいったことがない。ダウンロードしたファイル/ホルダーの場所がわからず、途中で右往左往して終わるのだ。今回も、Windowsがだめだというので、Linux環境(Ubuntu)にしてAnaconda3のダウンロード/インストールにトライしたが、デスクトップの表示すらままならず、手も足も出なかった。

 

ということでMacに戻ろう。Macの場合は、インストールの後に、Anaconda-Navigatorというアプリのアイコンが現れた。そのアイコンをクリックしてみると、見慣れたSpyder, Jupyter Notebookなどいくつかのアプリが並んでいる。ということで、Macでも簡単にPython使用環境が整うということである。(Anaconda Nucleusに起因すると思われる異常動作さえなければ・・・。)

 

さて、Anaconda3にDiffPy-CMIのパッケージを追加するには、コマンドプロンプト "terminal" が必要なのだが見当たらない。Windows 10では、Anaconda Prompt (Anaconda3)というのがあった。これがないと始まらないのだが、どうしたものかと思いながら、一方で"JupyteLab"は使ったことがなくて気になっていたので、試しにLaunchタブをクリックしてみたらJupyterLabが立ち上がり、JupyterLabの初期画面の左下に鎮座していた。

"Terminal"は、JupyterLabの中から起動できるようになっていた。

 

Anaconda.NavigatorのEnvironmentsから、Anaconda3にインストールされたパッケージを確認することができる。

python 3.9, scikit-learn 0.24.2, scipy 1.7.1, pandas 1.3.4, numpy 1.20.3, matplotlib 3.4.3, などがインストールされているのが確認できた。

初期状態(デフォルト)では、tensorflow, pytorch, kerasなどの、ディープラーニングで常用されているオープンソースプラットフォームがインストールされていないことがわかった。

 

それでは、JupyterLabの"Terminal"から、DiffPy-CMIをHPのマニュアル通りにインストールしてみよう。

インストールは無事完了した。

Anaconda.NabigatorのEnvironmentsには、base(root)とは別に、py37というEnvironmentが新たに作られていて、diffpy-cmiを含む147のパッケージがインストールされていることが確認できた。

 

マニュアルに従って入力していったらできた。というのでは、ここに書く意味が無いので、何をやったか、どうなったかを記しておこう。

terminal画面(表示名を*****で示す)

(base) *****@*****noMacBook-Pro -$ conda create --name=py37 python=3.7

これによって、py37というenvironmentができて、そこには、python 3.7.11と関連パッケージがインストールされる。(base)から(py37)という環境に変わる。(base)にはpythonでよく使われるpandas, matplotlib, scipy, scikit-learnなどがインストールされるが、(py37)には付加的なパッケージは含まれない(python 3.7環境を作っただけ)。

(base) *****@*****noMacBook-Pro -$ conda activate py37

これによって、作業場所(environment)が、(py37)に移る。

(py37) *****@*****noMacBook-Pro -$

(py37)の環境に、diffpy-cmiをインストールするのだが、それが可能なのは、Anacondaが、diffpyに関連するパッケージを保有/管理しているからであり、次のように入力することによって、その保管場所にアクセス可能になるようである。

(py37) *****@*****noMacBook-Pro -$ conda config --add channels diffpy

そのうえで、次のように入力することによって、diffpy-cmiとその関連パッケージ、さらには、それらのパッケージが使う、scipy, matplotlib, scipy, numpyなどもインストールされる。

(py37) *****@*****noMacBook-Pro -$ conda install diffpy-cmi

 

以上で、基礎工事完了!

次の週末には、diffpy-cmiのチュートリアルに取り組もう。

 

おっと、重要なことを忘れていた。DiffPy-CMIを使う最大の目的は、ASE(Atomic Simulation Environment)で作った原子構造モデル(全原子の位置座標)をDiffPy-CMIに読み込んでPDFスペクトルのシミュレーションと実験データへのフィッティングであった。

よって、同じ環境(py37)に、ASEをインストールしなければならない。土台はまだ半分しかできていないのだ。

 

早速、ASEのインストールに取り掛かった。

Mac OSX (Homebrew)の題目で始まる手順書の通りにやればよいと思ったが、「$ brew install python」は、py37の環境を使うから不要と判断して次に進んだ。

「$ pip install --upgrade --user ase」これで全てうまくいくと思ったら、なぜか、(py37)の環境にインストールされない。

ただし、(py37)の中のパッケージ数は147から166に増えていた。

 

ASE(Atomic Simulation Environment)のインストールはうまくいかなかった。

来週の週末は、ASEのインストールから始めよう!

 

12/17-19にやる予定だったが、別件(NMRが面白くなってきた)が入って、できなくなった。

 

2022年1月3日(月)

必要なものは2つある。

1つは、DiffPy-CMI

もう1つはASE(Atomic Simulation Environment)

今日、ようやくLinux(Ubuntu)を立ち上げることができたので、WinとMacLinuxを比べることができた。Anacondaを普通に使った場合、

DiffPy-CMIは、Windowsになく、MacLinuxにある。

ASEは、Windowsにあり、MacLinuxにはない。

ということがわかった。

PDFgui/fit2は、単一金属のナノ粒子の粒径を球体近似で見積もるのには十分かなと思う。ASEと組み合わせるDiffPy-CMIがどのようなものかを知る必要があるのだが、どうしたものか。

 

まずは、DiffPy-CMIがどのように使われているのか、GitHubで調べてみよう。

 

 

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基礎からの燃料電池触媒:2021年10月3日~中断

基礎からの燃料電池触媒:2021年10月3日~

山梨大学燃料電池ナノ材料研究センターのパンフレットによれば、1978年4月に工学部付属燃料電池実験施設を設置しており、1989年4月には学内特別施設電気化学エネルギー変換研究室を設置、2001年4月にはクリーンエネルギー研究センターを設置、そして、2008年4月に当該センターが設置されている。ということで、目に見える形で燃料電池にフォーカスしてからでもすでに40年以上の歴史を有している。

当該センターとNEDOとの関係:「本学では、2008年度から2014年度にNEDOのHi-PerFCプロジェクト(※1)を受託し、2015年度から2019年度にNEDOのSPer-FCプロジェクト(※2)を受託し、燃料電池の高出力化、高耐久化、高効率化に資する触媒や電解質材料およびそれらの性能を極限まで発揮させる触媒層の研究に取り組み、世界でも注目される多くの成果を挙げてまいりました。」

2020年度からは、「この度、新たにNEDOからECCEED’30-FCプロジェクト(※3) ECCEED’40-FCプロジェクト(※4)を受託しました。2020年度からこれまでの成果を活かしながら新たな発想を取り入れることにより、NEDO技術マップ等で定められるシナリオに基づき、高効率、高耐久、低コストの燃料電池システムを実現するための技術を開発します。」

ということで、燃料電池の研究開発の現状と展望を知るためには、当該センターに出かけて行ってお話を聞くのが良さそうである。できるだけ早い機会に訪問したいと思う。

 

今日のテーマは過電圧:

燃料電池のカソードにおける酸素還元反応に対する過電圧の起源に関する論文を読んでみよう。2004年の有名な論文のようだ。

J. K. Nørskov et al., Origin of the Overpotential for Oxygen Reduction at a Fuel-Cell Cathode, J. Phys. Chem. B, 108, 17886 (2004)

水素と酸素から水を生じる電気化学変換反応を利用する低温燃料電池において、酸素を還元するカソード反応が遅いということは、大きな問題点の1つである。それは、水素を酸化するアノード反応よりも遅いのだが、なぜそうなのかについてはコンセンサスが得られていない。

In the following, we use density functional theory (DFT) calculations to gain some insight into the cathode reactions.

DFT calculations can provide information about the stability of surface intermediates in the reactions, which cannot be easily obtained by other means.

We start by considering the simplest possible reaction mechanism over a Pt(111) surface.

We introduce a method for calculating the free energy of all intermediates as a function of the electrode potential directly from density functional theory calculations of adsorption energies for the surface intermediates.

On this basis, we establish an overview of the thermodynamics of the cathode reaction as a function of voltage, and we show that the overpotential of the reaction can be linked directly to the proton and electron transfer to adsorbed oxygen or hydroxide being strongly bonded to the surface at the electrode potential where the overall cathode reaction is at equilibrium.

We introduce a database of density functional theory calculations of energies of the surface intermediates for a number of metals and show that, on this basis, we can establish trends in the thermodynamic limitations for all the metals in question.

The model predicts a volcano-shaped relationship between the rate of the cathode reaction and the oxygen adsorption energy.

The model explains why Pt is the best elemental cathode material and why alloying can be used to improve its performance.

 

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***残念だが、ブログを中断する***

 

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物理化学(燃料電池を意識して):2021年9月29日~中断

ムーアの物理化学:藤代亮一訳 を眺めている。

17章 液体状態

3節 液体のX線回折

液体のX線回折について説明されている。液体水銀のX線回折図形と、その回折図形を解析することによって得られた動径分布関数g(r)が図示されている。

4節 液体構造の研究結果

液体構造の研究結果として水のX線回折が紹介されている。J. MorganとB. E. WarrenがJournal of Chemical Physics, 6, 666 (1938)に発表したものである。それによると第一隣接距離は、1.5℃で2.88Å、83℃では3.00Åより少し大きいところまで変化する。

(原子間力顕微鏡で固体表面の水の水和層を検出した画像を初めて見たときは驚いたものだが、X線回折でも水和層を検出できるかもしれない。と思って調べてみたら、X線回折X線CTR)による測定結果が2004年に報告されている。あらためて原子間力顕微鏡と表面X線CTRを比較すると、後者は測定精度が高く(観測している分子数は10^12~15レベル)、前者は局所情報(観測している分子数は10^2~3レベル)がわかるという違いがある。AFMの測定精度の向上が望まれるところである。とはいえ、第一原理計算や分子動力学(第一原理計算を含む)による計算精度が上がっており、かつ、機械学習の導入によって計算時間も短縮されているので、測定精度を追及することの意味について考える必要があるように思われる。とはいえ、やはり、科学することの根本は観測することにあるので、さらなる空間分解能の向上とノイズの低減が進むことによる新たな発見に期待したいと思う。タンパク質の水和構造についてもX線回折による重要な研究があるが、計算でどこまで明らかになっているのだろうか。ちょっと調べてみた。分子動力学によるシミュレーションは不可欠であるが、計測においても、X線テラヘルツ、NMRなど種々の計測技術を駆使しているようである。シミュレーション技術が進むとスペクトルの小さな差異についても解析可能になり、計算と計測の相乗効果でさらに前進しているように見える。現在活発に研究されている領域のようである。)

11章 原子構造と放射能

7節 放射能

マリ・キュリーがピエール・キュリーの論文集の序文に書いた文章が紹介されている。その一部を以下に示す。

ピエール・キュリーにとって、科学は必要欠くべからざるものであり、かれは科学こそ純粋かつ高尚なものと考えていた。経歴とか成功とか名誉とか栄光とかいうような、仕事に無関係なものはなんでもかれの考えに混ざり込んでくることを承知しなかった。かれは一つの問題を考え、時間と労力を惜しまずその解を追求し、少しずつそれを孵化し、ついで精密に育てあげ、最後に正確な結果の仕事に実らせて問題を実際に進めて行くことで一杯だったのである。かれはたえず広い範囲の科学的考えで頭が占められていたけれども、どの仕事をするに当っても同じように良心的な注意をし、どんな実際的なことがらも努力するに値しないとは考えなかったし、また結果の華麗さや生ずる影響を目的とはしなかった。

(科学的知識の不足あるいは欠如は科学的検討や考察が不十分になる原因であり、研究を推進することを妨げる要因となっているが、たいていは、不十分なままで放置されている。物理化学の教科書を前にすると、自分の知識がどれくらい不十分であるかがよくわかる。今、十分に理解できていることなどほとんどないことに気付かされて落ち込んでいる。少しずつ、知識を増やし、理解できる範囲を拡げていこう。)

1章 物理化学的な系の記述

実験とは物理的世界の計画的な観測である。

理論とは観測されるものを理想的なものに関係づけようとすることである。

この宇宙の究極の性質についての研究を掘り下げてゆくと、”説明”とか”理解”といったことばに付随する意味が次第に変わってくる。もともとこれらのことばは奇妙なことをありふれたことで表現しようとすることであるが、現在のところ科学的説明は比較的耳慣れたことを目新しいことばで記述しようとする傾向の方が強い。たとえば光を光子で、物質を波動で、といった具合である。それでも、理解しようと努める際には、理論の数学的背後に、過程の”物理的な像を描いてみる”ことは重要であると考えられる。

6節 物質の熱的性質

純粋の気体または液体状態を規定するためには、まず物質の質量mを規定すればよい。それからさらに三つの変数があるが、そのうち任意の二つが規定されればよい。これらの三つの変数は圧力P、容積V、および温度θであり、このうち任意の二つを指定すると第三の変数は規定される。これら変数の間には互いに関係があるからである。

温度θを物理的量として用いる前に、温度が定量的にどのようにして測定されるかを考える必要がある。温度という概念は暑さ、寒さの感覚から発展したものである。これらの知覚は液体の容積変化をもとにした温度計(thermometer)の読みに関連づけられることがわかったのである。

1631年にフランスの医者 Jean Rey は患者の熱病の進行を調べるためガラス球とガラス管の一部に水を入れたものを用いた。・・・。2個の定点を用いて目盛をつけることは、1688年 Dalenceによって行われた。かれは雪の融点を-10°、バターの融点を+10°と選んだのである。1694年、Renaldiは上の方の定点として水の沸点を下の定点として氷の融点をとった。これらの定点を正確に規定するためには、圧力は1気圧に保たれ氷と平衡にある水は空気で飽和しているという条件をつけ加えねばならない。これら2点へ0°と100°という数値を与えることを初めて提案したのは1710年スウエーデン人の Elviusであった。この2つの温度は百分度の目盛を定義するもので、同じような系を用いたスウエーデンの天文学者の名をとって公式には Cellcius(摂氏)温度目盛りと呼ばれる。

(温度の話題になると、最初に思うのは絶対零度-273.15℃であり、Heike Kamerlingh Onnesが発見した超電導現象である。Wikipediaによると、「1882年、ライデン大学実験物理学教授に就任。1894年、酸素、窒素、空気の液化装置を備えた低温物理学研究所を同大学に設立した。1908年、ヘリウムの液化に初めて成功。カール・フォン・リンデらが開発した冷却機と3重構造の魔法瓶を用い、外側から順に液体空気、液体水素を入れて温度を下げ、最終段階はジュール=トムソン効果によって0.9Kという低温を達成し、ヘリウムの液化を実現した。これが、当時の世界一の低温となった。オリジナルの装置はライデンの Boerhaave Museum にある。1911年に純金属(水銀、スズ、鉛)を冷却し、超低温での電気的性質の分析を行った。ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)らは、絶対零度では電気伝導体の電子が流れなくなる、つまり金属の比抵抗が無限大になると信じていた。一方オネスらは温度が低くなるに従って電気抵抗が小さくなり、絶対零度では0になると考えていた。これはイギリスのマーティセン (en) が温度が低くなると金属の伝導率が高まり、抵抗値が小さくなると示したことに基づいている[1]。4.2Kで、水銀の電気抵抗が突然消滅した。当初オネスは試料の電極がショートしたと思ったが、その後で現実に電気抵抗がゼロになったのだと気づいた[2]。これが超伝導現象を発見した瞬間だった。オネスは「水銀は新たな状態へと遷移した。この状態の特異な電気的特性から、これを超伝導状態 (superconductive state) とでも呼ぼう」と記している。その後、スズ、鉛などでも超伝導現象が起こることを発見した。また、超伝導状態の物質に磁場を加えると、超伝導が消失することを発見した。なお、オネスは元々 "superconductivity" ではなく "supraconductivity" という語を使っていた。低温物理学への貢献により、1912年にランフォード・メダル、1913年にはノーベル物理学賞が授与された。」273.15℃は絶対零度と呼ばれているがどのような状態なのか。と思っていたら、教科書に書かれていることがわかった。)

6章 熱力学と化学平衡

13節 絶対零度への接近

低温をつくり出したり用いたりする科学を低温科学(crypgenics)とよぶ。絶対零度に数度以内といった温度で初めてある著しい物質の性質が現われてくる。すなわち、金属の超電導とか超流体ヘリウムへの転移などがそうである。Tが0°Kに近づく際の物質のエントロピー極限値は(6・22)式の定数S0(下付き0)である。まず極低温を実現するのに用いられる方法を考察し、それからこの温度領域でエントロピーがどうなるか調べてみよう。・・・。

(ジュール・トムソン効果とLinde法により、0.84°Kに到達した。さらに温度を下げるためには、断熱消磁法(adiabatic demagnetization method)が必要であった。断熱消磁法は、1926年にWilliam GiauqueとPeter Debyeによって独立に提案されたとのこと。)

(今読むと、この教科書は、非常に良く書かれていて、示唆に富み、刺激に満ち溢れているように思うのだが、当時の自分は、おそらく、無感動で試験勉強のために目を通していただけだったのだろうと思ってしまう。試験勉強=短時間に試験に出る事項のみ記憶しようとしていた。言い訳に過ぎないが、時間はあっても、わからないところを調べる手段が限られ、図書館で調べ物をすると非常に長い時間がかかった。文献検索するのがたいへんだったし、文献が見つかってもコピーが制限されていた。そんなこと言うと、コピー機すらなかった時代の学生に笑われるかな。)

(10月1日から、仕事に復帰する。半年か1年ごとの契約なので、いつまで続けられるかわからないし、どのような仕事が待っているのかもまだわからないが、研究者を志していた頃の自分を取り戻して、研鑽を積んで、良い仕事をしたいなと思っている。)

8章 化学反応速度論

1節 化学変化の速度

最初の明確な定量的研究は1850年にL. Wilhelmyによってなされた。かれは酸の水溶液中におけるショ糖の転化について、偏光計を用いて研究した。

H2O + C12H22O11(ショ糖) → C6H12O6(ブドウ糖) + C6H12O6(果糖)

(酸が反応式に現れない:酸はそれ自身消費されずに反応速度を増大する触媒として作用する)

2節 反応速度の測定法

・・・。したがって最良の分析法は、事実上連続的で、しかも反応混合物から次々と試料を取り出さなくてよい方法である。それにはそれぞれの場合に応じた物理的性質が利用される。Wilhelmyが用いた旋光能の測定は一つの適切な例である。他の物理的方法として次のようなものがある。

1) 吸収スペクトルおよび比色分析

2) 誘電率の測定

3) 屈折率の測定

4) 反応による容積変化を測定する膨張計(dilatometer)法

(化学反応をリアルタイムで追跡している。in sutu, operandですな。)

3節 反応の次数

反応の次数は速度式における濃度のべき乗の和として定義される。たとえば、五酸化窒素の分解、2N2O5 ---> 4NO2 + O2は速度式 -d[N2O5]/dt = k1[N2O5]に従うことがわかっているから、これは1次反応(first-order reaction)である。二酸化窒素の分解、2NO2 ---> 2NO + O2は式 -d[NO2]/dt = k2[NO2]^2に従う。これは2次反応(second-order reaction)である。・・・。化学量論的な反応式の形と反応次数との間には必然的な関係は無い。

4節 反応の分子数

10章 電池

22節 濃淡分極

電池が不可逆的な条件のもとで働く際そのemfは当然平衡値からずれたものになる。電池が蓄電池すなわち電源として用いられる場合、電圧は平衡値以下に降下する。また電池内で電解を起こす場合に加えられるべき電圧はこの電池の平衡値以上のものでなければならない。

この電圧の平衡値との差は一部電池内の抵抗に打ち勝つためにも必要であって、これは積 IR に等しくなる。したがって電気エネルギーRI^2が熱として散逸する。これは不可逆的力学過程における摩擦損失に類似のものである。

このほか、電圧の差を生ずる原因はなお二つのものが普通考えられる。その一つは電池の電解質に起因するものであり、他の一つは電極における速度過程に関連するものである。前者は濃淡分極(concentration polarization)、後者は過電圧(over potential)とよばれる。

濃淡分極とは、その名称が示すように、働いている電池の電解質中に現れる濃度勾配によって生ずる。たとえば、銅陽極と白金陰極を硫酸銅溶液に浸した電極を考えよう。この電池に電流が流れると銅は陽極から溶出し陰極に析出する。電流がいくらか流れると電極付近の溶液中にはいくぶん銅イオンが減少することになり、電池内に濃度勾配ができる。このような濃度勾配ができれば10章16節で議論した濃淡電池と同じことになり、この濃淡電池が外部からの電圧に対抗する逆emfを与えるものと考えられる。この種の濃淡分極は、電解質をはげしくかきまぜて電解質によってつくられる濃度勾配をなくしてやれば実際に除去できることが多い。また温度を上昇させて電池内の電解質イオンの拡散を促進してもこの分極を減少させることができる。

(ここまでは定性的説明であり、文章を読めば分かったような気になるが、電池を組み上げて性能を出すためには定量的な取り扱いができるようにしておく必要がある。そのためには、9章の電気化学:電気伝導度とイオン反応、の知識が必要になる。濃淡電池の電位差であればFickの法則、・・・。)

23節 過電圧

過電圧(overvoltage)の現象の原因は、電極における平衡の達成の遅いこと、すなわち、電極と溶液内イオンとの電子の授受のいずれかが遅いことにある。すなわち反応が進行するには活性化自由エネルギーが必要で、外部から加えた余分の電圧がこの自由エネルギーを供給するのである。この現象はたいていの電極反応に見られるが、金属電極で金属の析出または熔解が起こる場合は通常小さいものである。特に気体の水素または酸素を発生させる場合に必要な過電圧はきわめて大きく、1V、またはある金属ではそれ以上にも達することがある。

 

***毎日、継続する予定***

***時間のある時に、ほんの少しずつ***

 

10月16日(土)

14章 分子構造と分子スペクトル

14節 核磁気共鳴

核スピン I をもつ核を磁場におけば空間量子化が起こる。すなわち磁場のまわりを磁気モーメントベクトルが歳差運動をして、磁場の方向の成分は次の値しかとることはできない。µ mngnβn ここでmn = I, I-1, I-2, …-I である。磁場におくと、異なったmnの値の状態が少しづつ異なったエネルギーをもつことになる。

・・・・・・・・・・。

この振動数は磁場の方向のまわりの磁気モーメントの古典的 Larmor の歳差運動のものと同じである。磁場においた種々の核スピン成分のエネルギー準位間の遷移を検出しようとした初期の試みは不成功に終わったが、1946年 E. M. Purcell と Felix Bloch は独立に核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMR)の方法を発展させた。

(テキストには、l = 4 の場合の空間量子化の模式図と、基本的な核磁気共鳴実験に用いる簡単な装置の模式図が描かれている。ここに書いている断片的な文字情報からでは、とても理解できるものではないと思う。)

磁石の磁場 H0 は0から10000 gaussまで変えられる。この磁場は空間量子化の結果、核エネルギー準位の等間隔の分離を引き起こす。そこへたとえば60 Mcの低出力のラジオ波を送信器から発信させる。すると小さな振動磁場ができて試料に作用する。この振動磁場の振動数が2準位間の遷移の振動数に等しいときには、共鳴してエネルギー準位間の遷移を生ずる。そのような遷移が試料中で起これば、磁場中の合成振動は受信コイルに電圧振動を引き起こし、この振動が増幅され検出される。図に示した装置では大きな磁石の磁場と送信器のラジオ周波数を固定し、大きな磁石の場に小さな可変場を連続的に加えていって共鳴を起こさせるようになっている。

(ここでテキストにはエタノールの低分解能NMRスペクトルと高分解能NMRスペクトルが示されている。)

・・・・・・・・・・。

送信器の振動場の振動数が、強い外部場のもとにある核磁石の歳差運動の自然の振動数に等しいときには、振動場からエネルギーが吸収される。いいかえるとマイクロ波の量子が吸収され核磁気量子数 mn が1単位増すのである。しかし振動場から連続吸収するには、核磁石がこのエネルギーを失って励起状態から基底状態へ帰り、またエネルギー吸収して他の量子飛躍に参加するというある有効な機構がなくてはならない。

ここで共鳴効果はエネルギーの正味の吸収を測るものであることを言っておく必要がある(すなわち低い状態から高い状態に移る際吸収するエネルギーと高い状態から低い状態に移る際放出するエネルギーとの差)。低い状態には多くの系があり(ボルツマン因子に従って)、正味のエネルギー吸収が起こるのである。

系が低い状態に戻るのは、スペクトルを放出することによるだけではなく、緩和過程とよばれるいろいろな無放射機構によっても起こる。このような緩和過程が存在しないと、下の状態にいる方が上の状態にいるより少ないような熱平衡を維持する方法がないから、核磁気共鳴は実際には不可能になるだろう。

緩和機構には次の2種類のものがある。その一つは外部場の方向の核磁化がその平衡値に達しようとする緩和であって、縦の緩和(longitudinal relaxiation)とよばれる。これは緩和速度が上の状態にある核の数の(平衡値からの)ずれの1乗に比例するから、1次反応式に従う。ここで速度定数の逆数は縦緩和時間 T1 とよばれる。この過程はまたスピン-格子緩和ともよばれ、配向した核のまわりの物体中のいろいろな変動する局所場によるものである。多くの機構の一例として、常磁性イオンが水に付着すると、イオンの不対電子の強い磁場のため陽子の緩和時間 T1 が非常に減少することが見出されている。

第2番目の緩和過程は横の緩和(transverse relaxation)( T2 )とよばれる。場の方向のまわりを歳差運動している核が互いに同一位相にあると、磁場の軸 Z に垂直な XY 面に磁気モーメントの正味の成分が残ることになる。したがってこの位相を破壊するような何らかの場があると、磁気モーメントの XY 成分の緩和を起こすことになろう。このような過程の1つはスピン-スピン緩和であって、スピンの高い状態の核がスピンを交換して隣の原子核へエネルギーを移すのである。

 

10月17日(日)

NMRの感度が気になって調べている。

化学と教育61巻6号(2013年)296-299:田代 充, NMRの基礎:観測できる原子核とできない原子核、観測しやすい原子核としにくい原子核

共鳴周波数が大きいほどNMR観測における測定感度が高い。実際の試料では天然存在比も感度に影響する。と書かれている。

相対感度は、炭素13を1.00とすると、プロトンは5.7x10^3となっている。フッ素19は、4.7x10^3、リン31は3.8x10^2、窒素14は、5.7である。

(感度は、共鳴周波数の3乗に比例する。)

 

 

 

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「Biological network analysis with deep learning」を読む

Biological network analysis with deep learning, G. Muzio et al., Briefings in Bioinformatics, 22(2),1515–1530 (2021)

この論文を読んでみよう。

Abstract Recent advancements in experimental high-throughput technologies have expanded the availability and quantity of molecular data in biology. Given the importance of interactions in biological processes, such as the interactions between proteins or the bonds within a chemical compound,this data is often represented in the form of a biological network. The rise of this data has created a need for new computational tools to analyze networks. One major trend in the field is to use deep learning for this goal and, more specifically, to use methods that work with networks, the so-called graph neural networks (GNNs). In this article, we describe biological networks and review the principles and underlying algorithms of GNNs.Wethen discuss domains in bioinformatics in which graph neural networks are frequently being applied at the moment,such as protein function prediction, protein–protein interaction prediction and in silico drug discovery and development. Finally, we highlight application areas such as gene regulatory networks and disease diagnosis where deep learning is emerging as a new tool to answer classic questions like gene interaction prediction and automatic disease prediction from data.

実験的なハイスループット技術の最近の進歩により、生物学における分子データの利用可能性と量が拡大しました。タンパク質間の相互作用や化合物内の結合など、生物学的プロセスにおける相互作用の重要性を考えると、このデータは生物学的ネットワークの形で表されることがよくあります。このデータの台頭により、ネットワークを分析するための新しい計算ツールが必要になりました。この分野の主要な傾向の1つは、この目標にディープラーニングを使用することです。具体的には、ネットワークで機能する方法、いわゆるグラフニューラルネットワーク(GNN)を使用することです。この記事では、生物学的ネットワークについて説明し、GNNの原理と基礎となるアルゴリズムを確認します。次に、タンパク質機能予測、タンパク質間相互作用予測、インシリコなど、グラフニューラルネットワークが現在頻繁に適用されているバイオインフォマティクスドメインについて説明します。創薬と開発。最後に、遺伝子調節ネットワークや疾患診断など、遺伝子相互作用の予測やデータからの自動疾患予測などの古典的な質問に答えるための新しいツールとしてディープラーニングが登場しているアプリケーション分野に焦点を当てます。by Google翻訳

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難しいな、とりあえず、保留!

 

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「表面と真空」の特集「データ駆動科学による表面・真空科学研究の新展開」を読む(9月18-20日)

特集「データ駆動科学による表面・真空科学研究の新展開」を読む

 

さまざまな用語が飛び交っていて、それぞれの定義と相互の関係性が気になるのだが、これは、たぶん、時間とともに変化しているように思うので、追求しないでおこう。

特集のタイトルにある「データ駆動科学」が意味するものが何であるかは、具体的にイメージできるようにしておくことが必要だと思うので、どのように定義されているのかを、調べてみよう。

表面科学会のデータ駆動表面科学研究部会のHPでは、次のような定義が掲載されている。

データ駆動科学とは、科学技術分野におけるビックデータの中から本質的に重要な要素を抜き出し、そこから法則や機能を抽出する学術領域です。

残念なことに、当該研究会のHPは、2018年1月のセミナー開催案内を最後に、更新されていない。

 

藤田大介表面科学における計測インフォマティクス~歴史的展開と将来展望~

総合報告ということで俯瞰的な記述が多い。具体例はオージェスペクトルの解析であるが、そこには「データ駆動科学」の構成要素の主体であるビッグデータの要素が含まれていないように思われる。具体例を学びたいと思っているので、これ以上言及しないことにする。

 

清原慎, 溝口照康:機械学習を用いた物質界面構造の高速決定

著者らが2016年から2018年にかけて発表した6件の論文を解説したもののようである。

最初のパラグラフを転載すれば、物質界面構造の意味が少し明確になると思う。

 実用材料の多くは単結晶の集合体である多結晶体であり、その内部には点欠陥(空孔)、線欠陥(転移)、面欠陥(界面、表面)といった格子欠陥を無数に内包している。格子欠陥はバルクとは異なる元素や原子配列で構成されるため、機械的・機能的物性に大きな影響を与えることが知られている。本研究の対象である粒界は結晶粒の相対的な方位差から生じる面欠陥であり、多結晶体の破壊挙動やイオン伝導に多大な影響を与える。このような格子欠陥における機能発現メカニズムを理解するためには、格子欠陥の原子構造を明らかにし、その特異的な構造と物性との相関性を理解する必要がある。

(白金ナノ粒子の触媒特性も、これらの欠陥の種類と構造によって、大きく異なるのかもしれないと思うと、こういう分野を理解しておくことは非常に重要ではないかと思う。ナノ粒子の調製の方法や条件によって生じる触媒特性の違いは、ナノ粒子表面の欠陥だけでなく、内部に存在する欠陥も関与しているかもしれない。ナノ粒子の3次元原子配列が、ナノ粒子の製造方法によってどう違うのかを知りたいものだ。計算機の中で合成し、3次元構造を出力し、触媒特性も出力できるようにしたいものだ。)

2.仮想スクリーニングによる界面構造決定

 仮想スクリーニングでは、まず手元にあるデータベースから機械学習により予測モデルを構築し、その予測モデルをもとに探索空間全体の数値や物性を予測する。観測データがない領域に関しても予測モデルをもとに「仮想的」に物性値や性能を知ることができる。つまりすべての計算や実験等を行わなくとも所望の値をもつ点(条件)を予測することが可能となる。我々はこの手法を粒界構造決定に利用した。

(仮想スクリーニング:バーチャルスクリーニング:virtual screening:2014年の人工知能学会論文誌において岡田正人らが、「機械学習による創薬支援のための高精度バーチャルスクリーニング法の開発」を発表している。)

次のパラグラフも転載しておこう。

 本手法の模式図をFig. 3に示す。予測モデルを構築するために、いくつかの粒界(Fig. 3のΣGB1, ΣGB2)に関しはɤ-sueface法により構造緩和計算を行う。続いて計算前の構造情報(原子間距離や密度など)と界面エネルギー(Fig. 3のE1,1~E2,j)の関係を機械学習によりモデル化して予測モデルを構築する。一度この予測モデルが得られれば、計算前の構造情報のみから粒界エネルギーを予測することができ、第一原理計算やMD計算を大幅に省略することができる。最後に、最小のエネルギーを与える候補構造のみに関して第一原理計算やMD計算等を行うことで正確な粒界構造を得ることができる。

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このへんにしておこう。論旨明快で、非常に参考になる。

 

田原寛之、ルドルフ ジェイソン クアリア、林智弘:データ駆動的抗タンパク質吸着・抗細胞接着表面設計:情報科学を用いたバイオマテリアルデザインへの挑戦

4.1 タンパク質吸着・細胞接着のプラットフォームとしての自己組織化単分子膜(SAMs)

 自己組織化単分子膜(Self-assembled monolayers : SAMs)(Fig. 2)は非常に高秩序な構造を固体表面上で形成し、真空中のみならず、空気中、水中でもその構造を安定して保持する。さらに、SAMsを構成する分子の末端基を選択することにより、表面の電荷、極性を改変でき、水への濡れ性などの物性を簡便に制御可能である。そのため、1990年代からSAMsはタンパク質・細胞接着実験のプラットフォームとして用いられ、タンパク質吸着・細胞接着に関する論文は300報以上にのぼる。我々はこれらの論文の中から、SAMへの fibrinogen(血液凝固に関わる血中タンパク質、様々な材料表面に吸着しやすい性質をもつ)について解析した150報程度の論文のデータを基に、約200種類のSAMsに関して、SAMsを構成する分子構造、水の静的接触角、fibrinogen の吸着量を含むデータベースを作成した。

4.2 SAMsを構成する分子の記述、機械学習の詳細

 有機分子の構造記述、枝分かれ構造などを記述する記述方法が存在するが、SAMsを構成する分子は直鎖構造をもつことから、ここでは単純に分子構造を元素数(水素、炭素、窒素、硫黄(酸素?))、総原子数、化学結合数(C-C, C-0, C-H, O-H, C=O, C-N, N-H)という記述子でパラメータ化した。

 本研究では人工ニューラルネットワークモデル(Artificial neural network : ANN)による機械学習を用いて、SAMsを構成する分子の構造と水の接触角などの基礎材料物性、さらにはタンパク質吸着、細胞接着との相関に関しても解析した(Fig. 3)。ここでは入力層、隠れ層、出力層の要素が、異なる強度(重み・バイアス)で結合し、入力信号から出力信号を計算するシステムである。また、化学構造(入力データ)と材料特性(出力データ)を含むデータベースを用いて機械学習を行った。本研究ではWEKA, Matlab, Python,プラットフォームでのscikit-learnライブラリなどを用いて行った。

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(著者らの機械学習の導入は、自然な流れのように見える。先に解くべき課題があって、その課題を解決するための研究成果・知識の蓄積(ビッグデータの元)があった。そこに、研究を推し進めるための道具として、新たに機械学習が加わった。数ある機械学習の手法をどれだけ試したのか、この論文に書かれていないのでわからないが、ANNを、最もシンプルな形で用いたことが、課題にマッチしたように見える。課題にマッチするようにANNを選び、デザインしたということかもしれない。)

4.3 効率的にビッグデータを取得するためのプラットフォーム

 前述のように、一般的なバイオマテリアルの評価項目である、水の接触角、タンパク質吸着、細胞接着に関しては、計算科学の手法を応用することは難しいことから、研究者が自ら、データを作成する必要がある。本研究では、効率的に表面の元素組成・分子組成と生体分子・細胞応答のデータを取得するために、基板の場所によって、SAMsを構成する分子の比率が連続的に変化する基板(傾斜基板)(Fig. 4)を用いた。傾斜基板をを構成する分子としてメチル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、オリゴエチレングリコール基のうち2種類を組み合わせて(総組み合わせ数は10)、それぞれに対し、水の静的接触角、fibrinogen吸着実験、血小板接着実験を行った。

 本研究では過去の文献データを用いて作成したデータベース、筆者らの実験データのみによるデータベースの2種類のデータベースを機械学習に用いた。

4.4 分子の化学構造からの様々な物性、生体分子・細胞との相互作用の予測

(吸着したibrinogenの量の予測精度が最も高く、その次が接触角で、最後に血小板接着密度となっている。吸着したfibrinogenの量と接触角は、文献から作成したデータベースよりも著者らの実験により作成したデータベースの方が圧倒的に精度が高い。文献ごとに実験条件が異なることが原因だろうと述べられている。血小板接着密度は著者らの測定データのみであるが、それでもばらつきは大きいように見える。データ量が少ないために十分学習できていないのか、考慮できていない要因があるのかは不明だが、入力した分子構造情報のみからでも、ある程度予測できている事が重要であって、可能性を感じさせる結果だということであろう。学習には80%のデータを用い、残りの20%のデータを予測に用いている。

(電気陰性度、双極子モーメント、分極率などの物性値を入力データに用いたらどんな結果になるのだろう。いずれにしても非常に興味深い結果である。)

5.生体分子・細胞応答の予測から求める機能を発現する材料の設計へ

ここでは、機械学習による逆問題解法的な材料設計、つまり、求める細胞応答を誘起するような材料設計が可能であるかどうかを議論する。我々はFig. 8に示すように、入力・出力パラメータの一部を交換したANNを構築した。このANNでは入力データに求める細胞応答を記述するパラメータ、出力に構造パラメータ(求めたい化学構造)を設定し、先ほどまでと同じデータベースを用いて機械学習を行った。学習後にANNの入力データとして望まれる材料機能、その他の化学構造パラメータを入力すると、求めたい構造パラメータを得ることができる。筆者らはこの方法で、抗タンパク吸着特性、あるいはタンパク吸着特性を有する単分子膜の設計が可能であることを報告している。つまりこの結果は、適切なデータベースを用いた機械学習によって、逆問題解法的な材料設計が可能であることを示している。

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分子構造情報から血小板の吸着濃度を予測するモデルを作ることができる。それは、血小板の吸着濃度は、SAMsを構成する分子の構造によって、血小板の吸着濃度が決まるから、その関係を分子構造と吸着濃度のデータセットから学ばせる。
(逆問題とは、たとえば、血小板の吸着濃度から分子構造を予測(提案)するモデルを作ることである。SAMsの分子構造が、血小板の吸着濃度によって決まるのであれば、その関係を、吸着濃度と分子構造のデータセットから学ばせればよい。訓練されたモデルに、吸着濃度を入力すれば、対応する分子構造が出力される。因果関係とか、分子構造とか、吸着性が何であるかは、ANNモデルが感知するところではない。吸着濃度が小さいときの組成と分子構造、吸着濃度が中くらいのときの組成と分子構造、吸着濃度が大きいときの組成と分子構造は異なっている筈で、それは、データセットとして与えて残差が最小になるまでANNモデルを訓練すれば、その関係をANNモデルは、最終的な重みとバイアスの組み合わせとして保持する。そのモデルに所望の吸着濃度を入力すれば、対応する組成と分子構造のセットが出力されるように設計しているのであろう。順方向と逆方向(逆問題に相当)とでは、逆方向は予測精度は下がると思うが、予測精度は、ANNの層数、ノード数、活性化価数、損失関数などの、いわゆるハイパーパラメータによって変わってくる。さらに、著者らが「逆問題解法的」と称しているFig. 8のモデルでは、入力データとしてchemicalparameter, material property, cell responce, が列挙されており、入力側と出力側の両方に化学構造情報が与えられているようにみえるので、これだけでは、何をやっているのかを正確に把握することはできない。)

 

この特集にはあと3件の論文があり、なかでも、「パーシステントホモロジーを用いた迷路状磁区構造におけるトポロジカル欠陥の可視化」が面白そうなのだが、今回はここまでにしておく。

 

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style=173 iteration=500

 

グラファイト系材料とナノ粒子のXPSスペクトル(2021年9月14-16日)

Pt/CのXPSによる分析・評価・解析の記事を読んでいて、気になったことがある。

1.グラファイト系材料のXPSスペクトルの正しい解析方法がわからない。(解析方法が間違っているのではないかと思われる論文が複数認められた。)

2.ナノ粒子のXPSスペクトルは、粒径によってピーク位置が高エネルギーシフトすることと、基板との相互作用によってもピークシフトする可能性があるために、両者を切り分けて解析しなければならないが、どうすれば良いのか。

 

グラファイト系材料のXPSスペクトルの解析における問題点

XPSスペクトルに含まれる情報を正しく把握することによって、材料の特性との関係をより正しく把握することができる。燃料電池の酸素還元触媒の性能に大きく関与している炭素材料であるが、動作中には電子輸送経路としての役割があり、電子密度や電子伝導性はC 1sスペクトルの高エネルギー側のテールの大きさと相関があるので、触媒の初期状態だけでなく、C 1sスペクトルの高エネルギー側のテールが、信頼性試験の評価指標の1つとして使えるのではないかと考えている。

導電性が高いグラファイト系材料は、1sの結合エネルギーが284.2 eV付近にあり、スペクトルの形状は非対称で、高エネルギー側にテールがある。(テールは伝導電子のシェイクオフやプラズモンやπ電子のシェイクアップによって生じている:個人的見解)

グラファイト系材料と言わずに、個々の物質名を示してみよう。これらを正しく識別できることから始めなければならないくらい、複雑に絡み合っているところがある。触媒粒子を担持することによってこれらの材料はなんらかの変化をしているはずであり、触媒として動作させればさらに変化するはずである。

高配向熱分解グラファイトHOPG、炭素繊維グラファイト黒鉛)、ケッチェンブラック、グラッシーカーボン、グラフェン、多層グラフェン(薄膜グラファイト)、粉末グラフェンナノチューブ、多層ナノチューブフラーレン、ダイヤモンドライクカーボン(無定形炭素)、・・・。

ナノチューブは導電性の程度によってテールが異なる。フラーレンは集合状態によってシェイクアップサテライトが異なる。電子密度やプラズモン密度等が異なれば、テールの形状は異なる。

以下に、グラファイト系物質のC 1sスペクトルの例を示す。最初に示す文献では、サテライトを正しく解析評価するための方法が詳細に説明されている。

以下のスペクトルは、炭素100%の材料である。あくまでもスタート時点の材料の特性がC 1sスペクトルに反映されたものである。

触媒を担持すればどう変化するか、触媒として作用させればどう変化するか、耐久性試験中にどう変化するか、調べることができれば、正しく解析すれば有用な情報が得られると思われるが、酸素やフッ素など様々な元素が共存することになるので、サテライトピークに、ケミカルシフトが重なって、解析は困難を極めることになるかもしれないが、少なくとも正しく解析する方法を知らないことによって、誤った解釈につながってしまうことだけは避けたいものである。サーベイ(ワイド)スペクトルは必須であり、ナロースペクトルはサテライトを含むこととバックグラウンドを正しく差し引くに十分な領域を含むことが重要である。

 

Practical guides for x-ray photoelectron spectroscopy (XPS): Interpreting the carbon 1s spectrum, T. R. Gengenbach et al., J. Vac. Sci. Technol. A 39, 013204 (2021)

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C ore-level XPS spectra of fullerene, highly oriented pyrolitic graphite, and glassy carbon
J.A. Leiroa et al., Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 128 (2003) 205–213

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次は、ナノ粒子のXPSスペクトルの例

まず、粒径によって光電子スペクトルのエネルギーが変化することを知らなかった。(忘れてしまっていただけかもしれない。)

Size dependence of core and valence binding energies in Pd nanoparticles: Interplay of quantum confinement and coordination reduction, I. Aruna et al., JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 104, 064308 2008

TEMによる形状観察:カーボンコートした300メッシュのTEM用グリッドに直接蒸着により形成:

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このTEM像から、Pdの平均粒径は、6 nm, 11 nm, 20 nmと見積もられた。Pd粒子が孤立しておらず、下地が殆ど見えなくなるくらいまで隙間なく埋め尽くされているのは、著者らが意図的に行ったことである。

XRDによる結晶性・原子間距離・粒径の評価:ガラス基板上に形成

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回折角2θが粒径が小さいほど大きくなっていることに着目し、格子パラメータが計算されている、大きい方の粒子からそれぞれ3.906, 3.900, 3.894となっている。同様の現象はAu, Ni, Sn, Biなどのナノ粒子でも認められているとのことである。

Auのナノ粒子では、バルクの格子定数に対して、4 nmでは0.7%, 1.6 nmでは1.4%、格子定数が小さくなっていることが報告されている。
格子の有効ひずみ η をWilliamson Hallの式を用いて評価すると(上に示したFig.2(b))試料N1の有効ひずみが最も大きいことがわかった。

この格子ひずみは、光電子ピークのエネルギーシフトの原因となっている可能性がある(引用文献9)。

XPSスペクトルによる結合エネルギーの評価:ドープしたSiウエハを基板に用いることでチャージアップを抑制:エネルギーシフトと粒径の関係を調査:

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このN1, N2, N3に対するサーベイスペクトルには、Pdに起因するスペクトルしか検出されていない。基板に用いたSiも検出されていない。Siが全く検出されていないのは検証が必要だが、N1は平均粒径が6 nmということなので、粒子の境界付近はもっと薄いはずで、そうすると、非弾性散乱を受けずに透過してくるSi 2s, Si 2pなどの光電子が、検出されてもよさそうに思うのだが、・・・。

ようやく、Pd 3dとPd 4dのナロースペクトル:

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粒径が20 nm, 11 nm, 6 nmと小さくなるほど、結合エネルギーは高エネルギー側にシフトしている。同様な現象は、Au, Ag, Ni, Cuナノ粒子についても報告されている。

さらに、そのシフト量は、粒径の20 nm, 11 nm, 6 nmに対して、Pd 3dでは、0.1 eV, 0.3 eV, 0.6 eVであるのに対し、Pd 4dでは、0.4 eV, 0.6 eV, 0.7 eVとなっており、内殻の3dよりも価電子の4dの方がシフト量が大きいことがわかった。

他の軌道に対しても調べた結果:

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これらの結果をlog-logプロットした結果:

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この結合エネルギーの粒径依存性を、粒径が小さくなり、ひずみが増え、格子定数が小さくなることに対して正の相関がある、量子閉じ込め効果と配位数減少効果の2つの効果に分けて考える。量子閉じ込め効果は粒径の2乗分の1に比例し、配位数減少効果は粒径の逆数に比例することから、粒径がさらに小さくなると、結合エネルギーの変化量は価電子よりも内殻電子の結合エネルギーの方が大きくなる。その逆転が起きる粒径が上に示したFig. 6の縦の点線で示すlog(4.4)=0.64すなわち4.4 nmの粒径である。

それを示したのが次のFig. 7である。

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図の左側に価電子準位4dのピークのエネルギーシフト、右側に内殻準位3d3/2のピークのエネルギーシフトがプロットされている。

6 nmと4 nmの粒径の間を境にして、4 nmより小さい粒径では、量子閉じ込め効果が優勢になることによって、内殻準位3d3/2のエネルギーシフトの方が、価電子準位4dのエネルギーシフトよりも大きくなっている。

(量子閉じ込め効果と配位数減少効果によって、結合エネルギーがシフトするとのことだが、理解できない。あとで調べてみよう。)

結合エネルギーが高エネルギー側にシフトすることの他に、Pdの価電子と内殻電子スペクトルのFWHMの変化が観測されている。4d価電子帯と4p, 4sの外殻電子のスペクトルのFWHMは減少し、3s, 3p, 3dなどの内殻電子のスペクトルのFWHMは大きくなっている。前者は、粒径が小さくなると配位数が減少することが原因となっている。さらに前者のスペクトルはFWHMの減少とともに、ピーク近傍の形状が丸くなっており、その原因は、長距離秩序の減少によるものと考えられている。内殻電子のスペクトルのFWHMが粒径減少によって大きくなるのは、表面原子の割合の増加によって、フェルミレベル近傍における局在非占有d状態の増加が関係しているようである。

それぞれの原因について正しく理解するには、現論文にあたる必要がある。

ナノ粒子のサイズ効果でスペクトルのエネルギーもFWHMも変化するということだけは覚えておこう。

 

量子閉じ込め効果と配位数減少の物理化学的意味を理解しよう。

An extended ‘quantum confinement’ theory: surface-coordination imperfection modifies the entire band structure of a nanosolid, Chang Q Sun et al., J. Phys. D: Appl. Phys. 34 (2001) 3470–3479

次の図は、配位数CNと結合距離Ciとの関係:原子の配位数CNが12の場合、最表面原子層の真空側の結合手の4つに対しては相手原子が存在しないので配位数CNは8となり、配位数の減少によって、結合距離(最表面層との距離)が約3%収縮する、ということになる。ナノ粒子のサイズが小さくなるほど表面原子の割合が増加するので、配位数の減少の割合が大きくなり、平均結合距離は短くなる。この現象は低エネルギー電子回折や低エネルギーイオン散乱、さらには収差補正電子顕微鏡観察などによって定量的に観察されている。

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XPSについても原理的なところをもっと深く理解する必要がある。

The interpretation of XPS spectra: Insights into materials properties
P. S.Bagus et al., Surface ScienceReports68(2013)273–304

30ページくらいあることと、内容が深くて、わかりやすく表現するには時間が足りないので、これで終了する。

 

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