西川尚男著 燃料電池の技術 東京電機大学出版局 2010年6月10日第1版1刷
ちょっと古いかなとは思うのだが、サブタイトルが、「固体高分子形の課題と対策」となっていて、当時の研究課題を知ることができるので、この12年間の進展を把握するための出発点とすることができそうである。(購入動機:上司の薦め)
第1章 資源の枯渇と地球温暖化問題
第2章 燃料電池の基本
2.1 燃料電池の原理と種類
2.2 燃料電池の理論効率と理論起電力
2.2.1 理論効率
ΔH=ΔG+TΔS
ΔHはエンタルピー変化、ΔGはギプス自由エネルギー変化、TΔSは温度とエントロピー変化の積。電気化学反応の場合、TΔSは熱として周囲に放出されるエネルギーである。
理論効率は(ギブス自由エネルギー変化ΔG÷エンタルピー変化ΔH)である。
2.2.2 理論起電力
理論起電力=ー(ギブス自由エネルギー変化÷nF)
2.2.3 高位発熱量HHVと低位発熱量LHVで表示した理論効率と理論起電力
温度によってギブス自由エネルギー変化もエンタルピー変化も変化するため温度によって理論効率も理論起電力も変化する。
第3章 固体高分子形燃料電池(PEFC)のセル・スタック構成と水管理
3.1 PEFCのセル・スタック構成
3.1.1 触媒
(1)触媒担持体と触媒層
PEFCの理論起電力は1.23 Vと高いが、電流を流すとセル電圧は低減する。小さい電流密度領域で実測されるセル電圧と理論起電力との差を活性化過電圧といい、活性化過電圧を小さくして、セル電圧を高めるために白金触媒が使用されている。
白金触媒の粒径は1 nmから5 nmで、その比表面積は50 m2/gから200 m2/gであり、触媒担持体(カーボンブラック)の10 重量%から50 重量%の範囲で付着されている。
(2)カソード触媒とアノード触媒
(3)新触媒の開発
白金触媒量の低減、合金触媒を含めた耐久性の向上、白金に替わる代替触媒の開発
触媒層内へのイオノマーの含浸量の最適化による触媒利用率の向上
ガス拡散性ならびに水分排出の最適化
膜の薄膜化による膜抵抗の低減
触媒の微粒子化、コアシェル化、粒径の単分散化、合金化、表面原子構造の最適化
脱白金触媒、カーボンアロイ触媒
3.1.2 高分子膜
電解質膜の模式図とミクロ構造
クラスター構造と水の移動
3.1.3 セパレータ
3.2 水管理
3.2.1 セル内水分移動
加湿されたガスをセルに供給
電気浸透水と逆拡散水
3.2.2 並行流と対向流
3.2.3 加湿方式
第4章 セル性能
4.1 セル性能の向上
(1)高分子膜厚さとEW値の低減
EW:交換基当量重量(スルホン酸基1モル当たりの乾燥状態のナフィオン(プロトン型)のグラム数)
(2)触媒の微粒子化および高分散化
触媒は粒径が1 nmから5 nmの白金触媒を10 nmから100 nmの粒状の触媒担持体であるカーボンブラックの上に付着させて形成される。
白金触媒の比表面積が大きいほど触媒の活性は高まるので、担持体の表面積の大きいカーボンブラックの上に微粒子化された白金触媒を高分散化させるのが望ましい。
(3)触媒層へのイオノマーの含浸
プロトン伝導性とガス拡散性のバランス
4.2 セル電圧特性
4.2.1 運転圧力特性
(1)加圧化によるセル電圧の上昇
(2)セル温度上昇の課題と解決策
水蒸気分圧と水素や酸素分圧とのバランス
4.2.2 セル運転温度特性
4.2.3 利用率特性
燃料流量のセル電圧特性への影響を燃料利用率特性という。
燃料利用率:水素を燃料としたとき、セル内で発電により消費される水素量をセル入り口の水素量で除した値。
(1)燃料利用率特性
(a)改質ガスを用いた燃料利用率特性
(b)純水素を用いた燃料利用率特性
純水素を燃料とする場合、排出される水素は燃料の損失となり電池効率の低下につながるため、排出水素量を極力減らす高燃料利用率運転か、電池からの排出水素を電池のアノードへ戻し、再度セル内で利用するアノードリサイクル運転が行われている。
(2)空気利用率特性
(a)一般的な空気利用率特性
空気利用率が増大するとセル内の酸素濃度が下がりセル電圧は低下する。
とくに電流の大きい領域でセル電圧低下が著しい。
(b)加湿温度変化時の空気利用率特性
4.2.4 加湿特性
PEFCは一般的に高加湿条件で運転する。
4.2.5 一酸化炭素の影響
第5章 セル劣化
5.1 触媒劣化
5.3 カーボン劣化
第6章 セル診断技術
6.1 サイクリックボルタンメトリー測定法(CV法)
6.1.1 測定原理
ある一定の電位掃引速度で、参照電極の電位を基準に作用電極に電圧を印加すると、参照電極と作用電極の間に電流が流れ、その結果作用電極で酸化・還元反応が起こる。
(Pt/C触媒では、電圧を0 V付近から1 V付近まで掃引すると、最初に水素脱離ピークが生じ、次にPtの酸化ピーク(酸素吸着)が生じる。続いて1 V付近から0 V付近まで掃引すると、Pt酸化物の還元ピーク(酸素脱離)が生じ、次に水素吸着ピークが生じる。)
6.1.2 測定方法と結果の評価
有効白金触媒表面積は、S=Q/2.1 m^2
(図6.3に、4種類の担持体のCV曲線が示されているが、本文の説明と対応していないように思う:グラファイトカーボンとブラックパールの線が入れ違いに?)
6.1.3 CV測定による触媒劣化の診断
単セルの起動停止試験終了後、活性化分極が38.5 mV増大し、カソード触媒の表面積は運転初期の25 %まで低下したという結果について検討した内容が示されている。
セル電圧の低下 ΔV=blog(S/S0):bはターフェル勾配
電気化学的表面積の低下(S0→S)は、起動停止試験終了後の触媒粒子の粒径増大を伴っている。触媒粒子の溶解や担持体からの脱離も電気化学的表面積減少の要因であろう。
6.2 分極分離手法
6.2.1 活性化分極、拡散分極、抵抗分極
活性化分極:酸素還元反応の寄与が大部分を占める:触媒性能の向上が低減に寄与
抵抗分極:電解質膜、ガス拡散電極、セパレータ、集電板などの抵抗による電圧低下
拡散分極:生成水の増える高電流密度領域で増える:反応ガスの拡散・反応の阻害による
(a)電流密度の小さい領域のセル電圧特性
低電流密度領域のセル電圧は直線的に変化し、このセル電圧の傾斜をターフェル勾配と呼ぶ。図6.7の場合のターフェル勾配は60 mV/decadeである。
ターフェル勾配の延長線と理論起電力との交点の電流密度を交換電流密度(exchange current density)とよび、その値は10^-8 A/cm2から10^-9 A/cm2である。
第7章 加速試験方法
燃料電池の開発をスピードアップさせるには、短時間で寿命予測が可能な加速寿命試験方法の開発が望まれる。
7.1 要素レベルの加速試験
7.2 ショートスタックを用いた加速試験
7.3 実セルレベルの加速寿命試験
8.1 自動車への適用
8.2 家庭用燃料電池